1、 現在、我が国公的年金の受給者は2,900万人、年金給付総額は44 4千億円(2002年度)です。そして公的年金が収入のすべてである世帯は、高齢者世帯の約6割にも上ります。

 

2、(世界各国の年金の給付水準)

年金はいずれの国でも社会保険として行われており、負担(保険料)と給付(年金の額)の関係が基本でありますが、我が国の年金の給付水準を、各国と較べてみますと、次のとおりです。

   アメリカは保険料率  12.4%で平均年金月額は 159,000

   イギリス  〃   21.8             113,300

   ドイツ   〃   19.5%    労働者年金 64,000

                   職員年金  86,000

   フランス  〃   16.45%   〃     58,000

   スウェーデン〃   18.91%   〃     106,000

   日本    〃   13.58%   〃       175,000円(20年以上加入)

なお、日本の片働き夫婦のサラリーマンのモデル年金月額は、238,000円です。

   このように、我が国の年金の給付水準は、現在、少ない保険料で世界最高額の年金をもらっていることになります。

 

3、(今回の年金制度改革の課題)

これまで我が国の年金制度は5年毎に財政再計算を行い、その度に給付と負担の両面について見直して参りましたが、少子高齢化が予想以上に進む中で若い世代にとってそれでは自分達の年金は将来どうなるのか心配だという不安感が拡がってきました。そこで、今回の年金制度改革においては、現役世代の保険料負担が長期的にも過大とならないよう配慮し、給付水準と現役世代の保険料負担をどのようにバランスのとれたものとするかが最大の課題となりました。

 

4、(スウェーデンの年金制度改革)

    そこで注目されたのが1999年のスウェーデンの年金制度改革です。高齢化は、日本、ドイツ、スウェーデンが深刻ですが、スウェーデンでは、いわゆる税方式の基礎年金を廃止して、従来の2階建て体系を所得比例年金と保証年金とに一本化しました。そして保険料率を将来にわたり18.5%で固定し、その範囲内で給付を行う仕組みに転換、出生率の低下による被保険者数の減少等により年金財政が悪化した場合には給付水準を自動調整することとしました。

 

 

5、(少子高齢化の人口推計結果)

     想定を上回って進む少子高齢化の状況は、平成12年国勢調査人口に基づき、国立社会保障・人口問題研究所が、2050年までの新しい人口推計を行った結果にも明らかです。
 
今回の推計結果では@少子化が一層進展する(2050年の合計特殊出生率1.39、出生児数67万人)。A高齢化が一層進展する(2050年の65歳以上人口35.7%、平均寿命男80.95年、女89.22年)。B総人口のピークは2006年の12,774万人で、2050年には10,059万人となっています。

 

6、(年金制度改革のねらい) 

今回の年金制度改正は、このように少子高齢化が急速に進む中で、長期的な給付と負担の均衡を確保し、長期的に安定した年金制度としようとしたものです。すなわち、年金制度を長続きさせるため、これまで5年毎に繰り返してきた給付と負担の見直しの方式を改め、100年先を見通して持続可能な年金制度としようとしたものです。もし、現状のまま放置し、今のままの給付水準を維持しようとすれば、早晩、厚生年金保険料は25.9%に、国民年金保険料は29,500円にまで高くせざるを得ません。
 これでは国民の理解は得られません。今回の年金制度改正では、高齢者にある程度我慢をお願いし、基礎年金への国の負担を1/2にすることで保険料引き上げをできるだけ抑えることとしました。

 

7、(今回の年金制度改革の内容)

(1)今回の年金制度改革では、厚生年金の最終保険料率を18.30%に固定し、その収入の範囲内で給付水準を自動調整することとしました(保険料水準固定方式)。これにより厚生年金の保険料率は、2004 10月から毎年0.354%ずつ引き上げられ、2017年度以降は18.30%で固定されます。また、国民年金の月額保険料は、20054月から毎年280円ずつ引き上げられ、2017年度以降は16,900円となります。

(2)また、社会全体の保険料負担能力に応じて年金額の伸びを調整するというマクロ経済スライドという方式を採用いたしました。これにより新しく年金をもらい始める人の改定率は、手取り賃金の伸び率から支え手の減少や平均余命の延びを勘案したスライド調整率が差し引かれることになります。また、既に年金をもらっている人については、名目額は維持しますが、改定率は物価上昇率からスライド調整率が差し引かれることになります。

(3)なお、このような給付水準の調整を行っても高齢期の生活を支えるものとして、標準的な厚生年金の世帯の給付水準は、少なくとも現役世代の平均的収入の50%を上回るものとしております。

(4)また、基礎年金の国庫負担割合を現在の3分の1から2分の1に引き上げます。そのためには新たに27千億円という巨額な財源が必要なため、2004年度から着手し、2009年度までに引き上げを完了させます。

(5)そのほか、生き方、働き方に対応した制度を構築することとし、在職老齢年金制度を見直し、短時間労働者への厚生年金の適用拡大も法施行後5年を目途として検討し、必要な措置を講ずることとしました。また、次世代育成支援の拡充として、子が3歳に達するまでの間、育児休業期間について保険料を免除するとともに、勤務時間の短縮等により標準報酬が低下した場合には、年金の計算上、低下前の標準報酬とみなす措置を講じました。また、女性と年金の問題については、被保険者が負担した保険料については、被扶養配偶者と被保険者が共同して負担したものであることを基本的認識とし、離婚した場合や分割を適用することが必要な事情がある場合、厚生年金の2分の1を分割できることとしました。

 

8、(年金制度を今改正する必要性) 

少子高齢化の進展で年金財政はすでに危機的状況にあります。改革しなかった場合2005年度の赤字は47千億円と見込まれており、民主党のように改革を5年先送りすれば8兆円赤字が拡大し、負担を後の世代につけまわしすることになるだけです。今回の改革によりようやく2010年に赤字が解消されると見込まれます。高齢者(65歳以上)と現役世代の比率は、現在の3.61から2025年には1.912050年には1.41となり、改革を一日でも先送りすれば、その分負担増、給付減がさらに必要となります。少子高齢化の進行により、高齢者世代と現役世代とが、お互いのことを考えて、少しずつ我慢していかなければ、将来にわたって年金制度を維持することはできないのです。

 

9、(国会議員の国民年金保険料未納・未加入問題)

     先の通常国会で最大の焦点となったのは、この年金改革関連法でした。民主党は対案を用意するとして、その提出を遅らせ、政府提案の法案審議を大幅に遅らせました。そこに出てきたのが、国民年金の未納、未加入問題です。国民年金の保険料未納が4割にも達しようとする国民年金制度の空洞化はそれ自体早急に解決を要する問題でありますが、こともあろうに国会議員の未納、未加入が与野党のほとんどすべての会派に及んだことは衝撃的でありました。「未納議員に国民の負担を求める法案を論じる資格はない」として、国民に年金不信、政治不信が一挙に拡がりました。未納三兄弟などと揶揄した野党第一党の党首も自らの言動によって辞任に追い込まれました。国民年金の未納、未加入議員は、選挙の心配が少ないベテラン議員とフリーター出身の若い議員に多かったようですが、長野県でも新聞報道によれば民主党羽田孜議員が国民年金保険料を支払うべき全期間国会議員が国民年金に強制加入となった1986年以降、94か月にわたって未納、未加入であったことは大変残念なことであります。このようなことはいわば町内会の顔役が長年町内会費を納めてこなかったようなものでもあり、認められるべきではありません。

 

10、(年金保険料のむだ遣い問題)

     年金改革関連法の審議では、国会議員の互助年金制度も取り上げられましたが、この問題については衆参議長の下に諮問機関を設け、今秋までに答申を得ることになりました。国民の信が得られるような改革がされる必要があります。保険料の「むだ遣い」問題も取り上げられました。年金給付に関係しないことへ年金保険料を使用してきたことは大きな問題であり、このような状況で保険料の引上げを求めるのは不適当だというものです。自民党では早くからこの課題に取り組み、昨年末よりワーキンググループを設置して議論を進めてきました。そして今後は、保険料は年金給付に関係しないことには一切使わないこととし、グリーンピア、年金被保険者住宅融資を廃止し、厚生年金会館、健康福祉センター(サンピア)などの年金福祉施設については、今後年金保険料は福祉施設整備費や委託費には投入しないこととしました。サンピア(サンピア佐久を含む)などは平成16年度に整理合理化計画を策定し、地方公共団体や民間へ売却を進め、5年をめどに整理します。

 

11、(社会保険庁改革)

    社会保険庁については、その事業運営に厳しい批判が寄せられましたが、与党年金制度改革協議会において社会保険庁の「解体的出直し」が必要との認識で一致、坂口厚生労働大臣から社会保険庁の改革私案が示されました。私は、729日の自民党厚生労働部会、社会保障調査会、年金制度調査会等合同会議の場において、@国民年金保険料を納めない人が4割に近いという国民年金納付の空洞化が、年金制度への信頼を損ねた。また保険料を納めなくてもよいという風潮をつくってしまった。A社会保険庁の示した今後の収納対策は、小手先の収納対策に過ぎず、本当に納付率80%確保の見通しをもっているのか、そもそも社会保険事務所による徴収体制では無理ではないか、Bこのままでは年金不信が高まるだけであり、窓口を市町村に戻すとか抜本的な徴収体制の見直しを検討すべきだと厚生労働省に求めました。

 

12、(年金を受給していない障害者への対応)

    年金を受給していない障害者への対応は長く課題となってきましたが、国民年金制度の発展過程で生じた特段の事情を勘案して、福祉的な措置を講ずることとし、先の通常国会で610日、特別障害者給付金支給制度の創設を図る法案を自民党・公明党で共同提案しました。支給額は1級で月額5万円、全額国庫負担です。平成1741日から法律を施行するため速やかな法案成立を図ることとしています。

 

13、(年金の一元化問題)

(1)           民主党は、先の通常国会において一元化による抜本改革と称して5年間改革を先送りしようとする対案を提出しましたが、給付と負担という基本的な問題については一切数字を明らかにしない中味のない法案でした。改革先送りは負担を後の世代につけまわしするだけであり、一元化したからといって少子高齢化の大波から逃れることはできません。給付と負担の問題に正面から向き合うことが求められます。一元化によって年金問題の根本は何も解決されるものではありません。年金は、どんな制度をとろうとも給付と負担は均衡させなければならないのです。また、一元化は民主党が言うほど簡単なものではありません。年金をすべて一元化し、所得比例の年金を導入しようとすれば国民すべてに所得把握のための納税者番号をつけなければなりません。また、自営業者に事業主負担も含めた10数%に及ぶ保険料が納められるか、年金だけで消費税率を少なくとも6%以上アップしなければならないことをどう考えるかなど、いろいろな問題を議論し解決しなければなりません。国民的合意を得ることは容易ではありません。

(2)年金制度改革については、年金改革関連法の衆議院通過に際し、自民党・民主党・公明党の「三党合意」がなされ、「年金の一元化問題を含む社会保障制度全般の一体的見直しを行い、平成193月を目途に結論を得て、随時実施を図るものとし、与野党により、平成16年から年金の一元化問題を含めた社会保障制度全般の一体的見直しのための協議会を設置する」ことが合意されています。三党合意を民主党は事実上反故にしてしまっていますが、国民のための年金を選挙目当てに政争の具とすることなく、三党合意に従い率直に議論を進めることが必要です。

(3)公的年金制度のありかたを考えるにあたっては、社会保障全体の負担がどうなるかを考えていかなければなりません。社会保障制度全般の一体的見直しの中で公的年金制度のあり方を考えていくことが重要です。

 

14、(年金改革関連法の成立)

年金改革関連法は、衆参の厚生労働委員会でそれぞれ約40時間の審議時間が費やされましたし、本会議、予算委員会でも十分な審議時間が取られました。にもかかわらず、民主党は対案を出しながらも基本的な議論はせずに、批判や揚げ足取りに終始しました。あげくの果ては昔ながらの審議拒否、牛歩戦術で終わりました。国民のための年金であるにもかかわらず、政争の具とされ、本質的な議論がなかったのは残念なことです。
年金改革関連法は、511日衆議院通過、65日参議院で可決、成立しました。 


15、 参議院議員の通常選挙が終了して開かれた臨時国会で、民主党は年金改正法廃止法
  案を提出しましたが、単に年金改正法の廃止をいうだけで、将来の年金制度の姿を示
  さない、給付と負担について全く見直しを行わない、そして年金一元化というばかり
  で一元化を行ううえで解決すべき課題(自営業者の所得把握、保険料負担等)につい
  て何ら具体的な内容や道筋を示さない、という否決されることを前提とした、極めて
  無責任なパフォーマンス法案であり、85日、当然のことながら否決、廃案となりま
  した。


16、 年金は国民生活にとって最も重要な問題の一つであります。今後ともより良き年金
  制度を探究する努力を欠いてはなりません。また年金だけでなく、社会保障全体で負
  担と給付がバランスするよう、社会保障制度全般の中で議論をする必要があります。
  また我が国の年金制度の長期的安定の基礎には、何よりも次世代育成支援対策のよう
  な少子化対策をどう進めるか、また日本経済の活性化、安定成長をどう図るかの問題
  があることを忘れてはなりません。日本社会の活力こそ年金制度の安定を支える力で
  あり、そのための国民的努力が求められているのです。

     年金問題解決の早道は、少子化対策の成功と日本経済の安定成長の確保にあるとも
  言えるのです。その成功の暁には、年金の給付増、負担減も勿論夢ではありません。