1、 現代科学技術の基盤をなす一元的価値観はバランスを失い、世界の混迷をもたらしている。西欧と異なる文化基盤から近代化を成し遂げ、多元的文明を取り込んできた東アジアの経験は、「多元的調和を尊ぶ新たなパラダイム」、これからの世界の枠組み「調和型文明形成」構築に貢献するとして、日本、中国、韓国の政治的トップリーダーを含む政策研究者がともに議論をする国際シンポジウムが、シルクロードの地蘭州で開催され、私もこれに参加してまいりました。

 

2、 日本からは新世紀文明議員懇談会会長森喜朗前総理、小野晋也文部科学副大臣、有馬朗人元文部大臣・東大総長、川勝平太国際日本文化研究センター教授、渥美和彦日本統合医療学会代表・東大名誉教授、吉田和男京大教授ら29人が参加し、韓国からは高健前大統領職務執行・前首相をはじめ7人の国会議員、研究者ら19人、中国からは蒋立峰中国社会科学院日本研究所所長・陸浩甘粛省省長ら20人がシンポジウムに参加しました。

 

3、 国際シンポジウムは97日から9日まで3日間開かれましたが、私は、初日の政治指導者会議の席上次のように発言しました。

(1)今、物質文明、科学技術の進展に、精神面、倫理面が追いつかない状況にある。そして西洋文明が一つの壁にぶつかり、一方にグローバリズムが進行しているが、他方で解決できない問題や負の側面がおこっている。これに対し、日中韓三国の識者が、自らの立場、東アジアの伝統的価値観も活かし、これらの問題を解決する新たな文明論を切り拓くことができないかということが本日の国際シンポジウムの課題である。

(2)私は、本日のシンポジウムの議論を聴き、大いに啓発され、東アジアから人類の幸せにつながる新たな文明を創り上げることが十分可能だと確信した。その理由は3つある。第一に、歴史の教えるところによれば、経済の興隆したところ、時期に文明が起きている。その点、世界のGDP3割を占める日中韓三国の著しい経済発展があり、21世紀には経済的に米、欧、東アジアの3極が形成されると見られており、文明が起きる条件を備えている。第二に、そもそも西欧中心の文明、繁栄は、18世紀後半からの2世紀余りであり、文明の発展過程ではむしろアジアの時代が長かったといえる。新たな文明論等アジアの時代が再び来たとしても不思議ではない。第三に、日中韓三国は、仏教、儒教、漢字文化を共有し、相手との関係で自己を律するなど相対的な考え方やすべてのものに仏性があるという仏教思想など多元的な価値観、多様な価値観を許容し、精神的な価値に重きを置く文化を持っていることである。そして大事なことは、日中韓三国は、西欧の社会、経済体制、法律制度をそのまま導入していない。和魂洋才の言葉にあるように、道具として技術、制度を導入したのみであり、基本的な価値観を譲っていないことである。これらのことから、この東アジアの地域こそ、新たな文明を切り開く可能性があると思う。

(3)では今後どうするのか。どういう点に配慮して進めるのかが次に問題となる。

  @ まず、日中韓三国の経済協力、文化協力を積極的に進めることである。東アジアビジネス圏構想、東アジア経済統合、東アジア共同体の形成などの議論もその一つである。

  A 日中韓三国に横たわる共通の課題に取り組み、そして新たな文明論について種々の角度から探求を深めることが必要である。環境問題、エネルギー問題、都市問題、情報革命などの共通の問題に取り組み、東洋医学・統合医療など東北アジア起源の伝統的な思想、学問、技術を大事にし、東北アジアが強い分野、技術を発展させること、そして地域の文化を大事にすることが必要である。

  B 21世紀はグローバル化と地域主義化が同時に進行する時代である。東北アジアで多様性を許容した新たな文明論を提起することは、世界の共存、共栄にとって大きなプラスとなる。

  C 一番難しいのが歴史認識、歴史問題などの政治的な問題である。基本的には、アジア・太平洋地域なかんずく東アジアの安定と平和に向けた安定した友好関係を築いていくことが重要であり、大局的見地から未来志向による日中韓三国関係を発展させていくことが必要である。また、政治レベルをはじめとする対話、交流を継続し、相互の国民の間の相互理解、相互信頼を高めることが必要である。

 などと述べました。

また、韓国の国会議員から日本の憲法改正の動きに懸念を持っている旨の発言があったが、私は、これに対し、我が国の憲法改正論議において憲法の平和主義の理念を変える議論はなく、改正後も平和主義は堅持される。勿論隣国に懸念を与えるようなことはあってはならない旨発言しました。

 

4、 99日、国際シンポジウム参加者は、敦煌英高窟の前で、次の敦煌宣言を発しました。

 

敦煌宣言

 

新世紀を迎えて三年半余、この間の世界を回顧すれば、世界各地に新しい形の混乱が生じ、数多くのテロや紛争が起きている。また、貧富の拡大や環境破壊の広がりなどが懸念されている。
 前世紀以来の科学技術の目覚ましい発展は、地球社会の一体感を促進し、人々の生活を飛躍的に豊かにしてきた。その一方で、この進歩が生み出すこれら諸問題を解決するため、多元的な価値観の共存や調和を可能にする思想や国際社会の構築が急務である。
 この問題意識の下に、今回、日本、中国、韓国(以下「この三カ国」と記す)の政治家と研究者が、かつてヨーロッパとアジアを結び合わせたシルクロード上の都市、蘭州・敦煌に集い、東北アジアの知恵を活かして、世界との調和の下に新世紀文明を拓く議論を行った。そして、以下について合意した。

 

一. 私たちは、東北アジアの伝統的文化と価値観を再評価すると共に、新しい考え方を広く求め、新世紀にふさわしい文明を共に拓くことを決意する。

 

二. 私たちは、単一の価値観が世界を律するのではなく、多元的価値観が共存し、尊重され、かつ調和する国際社会を希望する。

 

三. 私たちは、この実現に必要とされる科学技術、思想と国際社会の枠組みなどを多分野の研究者の知恵を集めて総合的に探求する。

 

四. 私たちは、この探求から導き出される叡智を国際社会に展開することを願い、この三カ国の政治家と共に連携し、議論し,新しい文明の構築に立ち向かう。

 

五. 私たちは、新しい文明建設を次世代に期待し、この三カ国が連携協力して、有為にして有徳の人材の育成と教育に取り組む。

 

以上の各項目を誠実に履行することを通し、私たちは、この三カ国の間に信頼と調和を構築すること、そして、この三カ国の協力に基づき、世界の平和と人々の幸福を実現することを誓い合った。

 この文書を、世界に向けて、古の東西文明融合の地・敦煌において宣言する。

 

 二〇〇四年九月九日

第二回 新世紀文明国際シンポジウム

          参加者一同